「1対4対9対??」 クラーク達の実験 (1)

「各辺の比率を表す二乗の数字、一対四対九 − 今ではなんとあたりまえに見えることか!しかもその比率でなければならないのだ。数列が、たった三次元で終わるとばかり思っていた愚かさ!(*)」

小説2001年宇宙の旅の上記部分を含む前後数項には、スターチャイルドとなったボーマンの 「思考と行動」 が語られているが、実は、この作品中の 「思考と行動」 は 「実験」 と同義なのである。

上述のくだりは特殊相対性理論の文学的な実験 (表現) なのだ。より端的に言えば、ヘルマン・ミンコフスキー (*1)の 「ライト・コーン (*2)」 つまり四次元時空連続体、ヴェルトに言及している部分なのである。

特殊相対性理論下の時間と空間と運動についてヘルマン・ミンコフスキーは 「ライト・コーン」 で図式化したが、クラークは、あっさりと、文学的手法で 「実験」 を行なってしまったというわけだ。執筆中のクラークは作家であると同時に理論物理学者及び実験物理学者でもあったのだろう。

クラークだけではない。監督のキューブリックについても同じ事が言えるのだ。監督、制作、脚本を手がけた彼であるが、注目すべきは全特殊撮影効果の考案はキューブリックが行ったということである。制作現場の様子について特殊撮影スタッフのダグラス・トランブルは 「それはまるで物理の実験室のようだった」 と答えている。小説2001年宇宙の旅、映画2001年宇宙の旅は、特殊/一般相対性理論 (以下 相対性理論) を文学的にビジュアル的に実験/検証する 「場」 であったと言えはしないか。

光 (光速度) や重力場 (等価原理) を扱う相対性理論は われわれの実生活の中では ほとんど意識されることがない。宇宙開発、、、人工衛星、有人飛行、月面探査、惑星探査。ソーラーシステム (太陽系)、、、太陽、惑星、衛星、彗星。すべてニュートン力学でいけるからである。(*3)

相対性理論が援用されるのは人類が光速を意識するテクノロジーを入手した時、パルサーやブラックホールのような異常な重力場を身近に感じた時である。

であるからクラーク達は、スペースオペラ的な要素を完全に排除した上で それら理論の援用が必要な場面を作品中に巧みに創りだし、登場人物に感情移入して実験/検証を繰り返したのではないだろうか。

この作品の真のメーンキャストはクラークでありキューブリックなのだ。この作品は、「SF作品という皮をかぶった論文」 なのかもしれない。

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(*1): 「時空」というものを最初に定義した数学者。アインシュタインが学生だった当時の数学の教授。

(*2): ミンコフスキーが、特殊相対性理論の時空間を、空間座標と時間座標で表した円錐面 (光円錐面)。時間軸と空間軸の交点に現在の人間が位置する。円錐面の内側がわれわれの世界であり、外側は因果関係が絶たれた世界。

(*3): 光速よりはるかに小さい速度においては、相対性理論によるもニュートン力学によるも結果は完全に一致する。

参考
National Aeronautics and Space Administration (NASA) 2001年宇宙の旅 (早川書房) 2010年宇宙の旅 (早川書房) 2001 A Space Odyssey (Paperback) 2010 Odyssey Two (Paperback) 2001 A Space Odyssey (MGM) 2010 Odyssey Two (MGM.UA) Script: Internet Resource Archive (*) 2001年宇宙の旅 (早川書房) より引用 (**) 2010年宇宙の旅 (早川書房) より引用

Writer: Masaakix Web site: http://www.masaakix.interlink.or.jp/

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