2001年宇宙の旅におけるHAL9000の位置づけは極めて難解である。コンピュータという単純な存在でないことは確かであるが、生命体ともいえない。プログラムされた見せかけの感情のはずなのに、アルゴリズムの範囲内とも思えない。
自我補強、自動思考。人間の脳にみたてたユニット群は 「多重冗長性」 の支配下で自我を保ち、ホログラフィック・メモリへの二次元的アクセスを拒否する。そして、パラノイアに至っては、模倣という概念を超越してしまうのである。
神経症、妄想、偏執。模倣を超越した狂気、コンピュータ・パラノイア。コンピュータの誤作動に人間の病理を当てはめたクラークの背後には 「シリコン生命体」 という目論見が見え隠れする。バイオチップ。半導体素子の限界を打ち破る生物システム。脳細胞とシナプスが織り成すニューラルネットワーク。それらの行き着く先はニューロコンピュータに他ならない。
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