__ | APOLLO 16 (AS-511) TOP | __ |
SATURN 01-10 AS 201 202 203 APOLLO 01 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
Summary Cameras Lunar Surface Landing site Eva Lunar Samples Science Experiment 1 SIM Science Experiment 2
Mission type Launch Launch vehicle Payload (Spacecraft) ALSEP Mission Commander Command module pilot Lunar module pilot Translunar injection CSM-LM docking Lunar orbit insertion LM's crews CSM-LM separation Lunar landing Lunar Landing site Lunar surface EVA-1 Lunar surface EVA-2 Lunar surface EVA-3 Lunar Roving Vehicle Lunar surface stay time Lunar samples Lunar liftoff LM-CSM docking LM Released LM Impact moon Lunar orbits Transearth injection Duration Earth Splashdown Depository |
1972年4月16日 午後12時54分 (EST) ケープケネディ Complex 39 Pad A。5回目の有人月面着陸を目指してアポロ16号は打ち上げられた 。今回のランディング・サイトは、アポロ11号の着陸地点から南西方向に400kmほどいったところ位置するデカルト高地 (Descartes Highlands) だ。 クルー(*1)は船長のジョン・ヤング(*2)、司令船パイロットのトーマス・マティングリー(*3)、そして月着陸船パイロットのチャールズ・デュークである。 - - - - - (*2) ジョン・ヤングはジェミニ(3号、10号)の時代から活躍していた経験豊かなアストロノート(元々は航空エンジニア)であり、今回の16号で船長を務めることになるのだが、アポロ計画全体から見てみると「影の立役者」としての印象が強い。アポロ13号のバックアップ船長だったことは有名だが、その他にも、アポロ7号ではアポロ計画初の有人飛行をバックアップ・クルーとして見守り、アポロ17号でもアポロ計画最後の有人月着陸をバックアップクルーとして見届けている。つまり、ジョン・ヤングは「アポロ有人飛行計画」の守護神だったともいえる。 (*3) 13号当時のトーマス・マティングリーは風疹(German measles)の疑いで急遽ジャック・スワイガートと交代してバックアップ・クルーにまわされたのであり、本来のバックアップ・クルーではなかった(本来のバックアップ・クルーはジャック・スワイガートだった)。 [ 2回目のJ mission ] アポロ16号ミッションは5回目の有人月面着陸であり、前回の15号と同様、広範囲にわたる高水準な探査活動によって各種データを収集する、いわゆるJ missionを遂行することになっていた。打ち上げから帰還までの行程は(些細な不具合は常にあったにせよ)より「安定度」が増し、実験やサンプル採取に関しても更にレベルが上がってきて、アポロ計画も佳境に入った感があるが、不思議なことに有人月面探査は次の17号で突如終了することになる。「世間がアポロ計画に飽き始めた」とか「それだけの予算をかける意味がない」など、大方は俗世間の中に中止される理由をみつけようとしたが(*1)、果たしてそれだけの理由だったのだろうか。そのようなとらえかたのみではアポロ計画の「本筋」を見失うことになりはしないか。 アポロ計画は、「長期的展望」にたった「確固たる目的」を持つ「国家的宇宙開発プロジェクト」で、その遂行にあたって投入された予算や人員(人的資源)についても過去に例を見ない規模だったのであり、後先のことも考えない、プロパガンダが主目的(*2)の空々しいプロジェクトだったとは到底思えない。発射場やそれらに付随する施設群の建設、ロケットやモジュールの開発、着陸地点選定のための無人月面探査、宇宙飛行士の基礎訓練、地上における各種実験やサンプル採取の「実地訓練(あえて月面を連想する場所が選ばれた)」、地上のシミュレーターを使った飛行・着陸訓練、宇宙空間(地球周回軌道上→月周回軌道上)における有人月面着陸のデモンストレーションなど、多くの陰の立役者に支えられながら数々の失敗と試行錯誤を経たうえで段階的にレベルアップをはかり、ようやくJ missionに辿り着いたものである。従って、その中止された理由付けについても、下世話な理由のみに拘泥することなく、アポロ計画の本質的な内容(実験やサンプル採取)の検証をも含めてなされるべきではないだろうか。 - - - - - (*1b) これは別に米国民に限ったことではないが、アポロ計画の内容を(アバウトでもよいから)科学的に理解できた層というのは、ごくごく限られた層であったように思う。大多数はテレビ中継三点セット(1.打ち上げシーン、2.船内インタビューと月面船外活動、3.地球帰還→着水→回収→会見)のみでアポロ計画を評価していたのではないか。ちなみに、当時(中学生〜高校生)の筆者もそうだった。 (*2) 「旧ソ連に先んじて人類を月面に着陸させ、共産主義・社会主義国家に対する自由主義国家の優位性を示すこと」がアポロ計画の主目的だったなどとまことしやかに言われてきたが、そうであるなら、せいぜいフラッグ・セレモニーと着陸地点周辺の撮影のみで事足りたわけで、わざわざG mission(アポロ11号)を段階的にレベルアップして、J missionのような高水準な実験や広範囲にわたる大量のサンプル採取を行う必要などなかったはずである。プロパガンダが主目的であるかのように振舞った(*3)と解するならば、その裏には一体なにがあるのだろうか、この点を突き詰めて行くことがアポロ計画の実体にアクセスする早道なのかもしれない。 (*3) アポロ計画を提案したジョン・F・ケネディの「熱弁」の矛先は、はたしてどこに向けられていたのか。議会、国民、旧ソ連。地球外に向けられていたとする異端説まである。 アポロ宇宙船のランディングサイト(着陸地)は「海(Mare)」と呼ばれるエリアが多いが、今回のランディング・サイトのデカルト高地(Descartes Highlands)は「陸地」に属している。そこは、月が満ちていく上弦の月(*1a)では良く見えるが、逆に月が欠けていく下弦の月(*1b)では殆ど確認出来なくなる。位置としては、静かの海(Mare Tranquillitatis = Sea of Tranquility)と神酒の海(Mare Nectaris、直径約350km)とでちょうど正三角形を形作っているエリアで、南西方向から見れば、静かの海と雲の海(Mare Nubium)との中間あたりに位置している。地形的にも「海」のような滑らかさは無く、無数のクレーターが崩壊に崩壊を重ねてひしめき、ゴツゴツしているという表現が最も当てはまる陸地エリアといえる。 ここから西へ500kmほど行くと、そこには特異な現象で注目されるアルフォンスス・クレーター(Alphonsus crater、13.7S,3.2W、直径約108km)やプトレマイオス・クレーター(Ptolemaeus crater、9.2S,1.8W、直径約153km)があり、アルフォンスス・クレーターの中心部分には、1965年3月に無人月探査機レンジャー9号が激突している。さらに、これら両クレーターの西隣には月面を代表する連鎖クレーターの デーヴィ・クレーターチェーン(Davy crater chain、11S,7W、全長約47km)が雲の海(Mare Nubium)との境界付近にその不思議な地形を刻んでいる。この連鎖クレーターは連なりかたが整い過ぎていて、いかなる学説も受け付けないような雰囲気があって面白い。ちなみに、アポロ11号の着陸地点(静かの海の西端)は、ここから南西方向へ400kmほど行ったところにある。 これは筆者の極めて個人的な願望なのだが、16号には是非とも「アルタイ壁(Altai Rupes(Scarp)、24S,23E)」(*2)に着陸してもらいたかった。デカルト高地から南南東方向に300kmほど行ったところにあるこの有名な地形は、まるで「月面上の万里の長城」(*3)であり、地質学的に見ても、北東に広がる神酒の海(Mare Nectaris、直径約350km)との因果関係を示すデータ(サンプル)を得ることで、「海(Mare)」の生成過程及びそれが周辺に及ぼす影響等を解明できる可能性があったからだ。右のアルタイ壁のイメージは無人月面探査機ルナ・オービター4号が撮影したものだ。 - - - - - (*1b) 下弦の月:左側=西側が暗い(欠けた)状態の月。 (*2) アルタイ壁の観測は、その位置関係からして上弦の月(*1a)が最適となるが、下弦の月(*1b)の暗闇に埋没している様も神秘的かつ不気味であり興味が尽きない。 (*3) その実体は全長500km弱にも及ぶ断崖にすぎないのだが。 [ J-missionに相応しい充実した実験、貴重なサンプルの採取 ] ゴツゴツした16号のランディング・サイトは、過去のミッションのそれらとは様相を異にする地形(陸地)であることから、今までに得られなかった特異なデータが相当数眠っていると期待された(実際そうだった)。今回得られたデータ等を地球に持ち帰って分析することで、前回までのミッションで得られた「分析困難なデータ等を解く鍵」が見つかる可能性もある。ランディング・ポイントをまるで取り囲むように光条を放っている、ノースレイ・クレーター(North Ray Crater)、サウスレイ・クレーター(South Ray Crater)も非常に興味深いが、それらについてはEVA(月面船外活動)の一環として、訪問・調査・サンプル採取が行われた(*1)。 不可思議な発色・発光の巨岩、硬質で多種多様な鉱物を含む角礫岩、15号で採取されたサンプル(Genesis Rock)よりもさらに古い年代に形成されたと思われる Anorthosite、ノースレイ・クレーターの傍らで採取された光条の発生源を解明しうる「白く輝く角礫岩」など、多数の貴重なサンプルが採取されている。 月面上で行われた実験については、紫外線探査とでもいうべき Far Ultra Violet Camera/Spectrograph が目新しい。地球大気、恒星、銀河系、星雲、星団等を対象に、意義深い研究がなされたようだ。その他、Heat Flow Experiment の失敗などもあったが、主要な実験は15号と同様、一定の成果が得られたといえる。 SIM(Scientific Instrument Module)も引き続き16号の機械船(SM)にマウントされていた。目的別に取りそろえた各種撮影機材(カメラ等)やレーザー高度計、アルファ線・ガンマ線・X線を対象とした各種スペクトラ・メーターなどを使って、高度なデータ収集や撮影が行われている。 実体のよく判らない人工衛星(*2) サブ・サテライト(Subsatellite) も前回(15号)と同様にアポロ宇宙船のクルーが地球への帰還に先立って月周回軌道上に投入した。本来の使命は文字通り「サブ」に徹した活動のはずであるが、ある意味では「メイン」に近い活動もなされていたのではないかとする見かたもある。 - - - - - (*2) 月という地球の衛星を周回することから人工孫衛星と呼ばれることもある。月を周回するアポロ宇宙船も地球側から見れば有人孫衛星である。 |
70-millimeter Hasselblad Camera 16-millimeter Maurer Data Acquisition Cameras (DAC) Lunar Surface TV Camera Mapping Camera System Panoramic Camera 70-millimeter Hasselblad EL Camera 35-millimeter Nikon Camera Westinghouse Color TV Camera |
右のイメージをFull sizeで見ると、デーヴィ・クレーター(Davy crater、11.8S,8.1W、直径約34km)付近の小さなクレーターの連なり、デーヴィ・クレーターチェーン(Davy crater chain、11S,7W、全長約47km)が確認できる。この付近は、「陸地」と「海(Mare)」が交錯しているようなエリアで、デーヴィ・クレーターチェーンの西側には雲の海(Mare Nubium)が滑らかな様相を見せている。この連なりは、およそ47kmの長さに23個の小クレーターを含んでいて、それぞれの小クレーターは 1〜3 km 程度の直径である。どのようにして形成されたかについては諸説あるが、1994年7月に木星に衝突したシューメーカ・レビー第9彗星のような彗星群が月面に衝突したとの説も提出されている。それにしても、整い過ぎの感のある連鎖クレーターである。デーヴィ・クレーターチェーンについてはルナ・オービター4号も参照。 イメージの右下側にはアルフォンスス・クレーター(Alphonsus crater、13.7S,3.2W、直径約108km)があるが画像中では見えていない。 |
イメージの右半分を占めるクレーターがガイオト・クレーター(Guyot crater、11.4N,117.5E、直径約92km)である。イメージのちょうど真中あたりの同クレーターの縁(リム)に黒っぽいものが確認できる(どうみても「溶岩」には見えないのだが)。周辺のエリアは様々なサイズのクレーターが隙間無くひしめいており、見るからに月の裏側(farside)の特徴をとらえている。このイメージは月周回軌道上のアポロ16号宇宙船から撮影された。 |
アポロ16号宇宙船が月の裏側で撮影したキング・クレーター(King crater、5.0N,120.5E、直径は約76km)である。月の裏側におけるこのサイズのクレーターとしては新しい部類に入る。同クレーター内部には高地(山というべきか)部分があって、そこに刻まれたY字型地形は2本指(Yの上部)が北北西を指し示している。イメージ右側の得体の知れない棒状の物体はアポロ16号宇宙船の「一部分」なのでご安心を。 |
アポロ16号のランディング・ポイント(矢印のエリア)を挟んでいるノースレイ・クレーター(North Ray Crater)とサウスレイ・クレーター(South Ray Crater)が確認できる。反射率が高いクレーターだ。ノースレイ・クレーターは3回目の EVA (Station 11/12/13) で訪れた。 このイメージには反射率の高いクレーターが多く写っていて実に壮観だ。イメージ中央付近の二つの小さな円形クレーター、その左下側の二つのやや大きめのクレーター(※)、どちらも非常に目立つ存在である。さらにその左下には、やや暗い大きなクレーターのアブールフィダー・クレーター(Abulfeda crater、13.8S,13.9E、直径約60km)が大きく口を開けている。 (※) 左上の反射率の高いクレーターがドロンド・クレーター(Dollond crater、10.4S,14.4E、直径約11km)で、その右下には、デカルト・クレーター(Descartes crater、11.7S,15.7E、直径約48km)が、反射率の高いクレーターを取り囲むようにうっすらとクレーターのリム(縁)を描き出している。 |
Gassendi crater and Mare Humorum |
アポロ16号宇宙船から撮影されたガッサンディ・クレーター(Gassendi Crater、17.6S,40.1W、直径約110km)である。イメージの殆どを占めるこの巨大クレーターは非常に複雑な地形をなしていて、それが故に、中央のピーク付近はアポロ17号のランディング・サイトの候補になっていた。このイメージでは判別できないが、同クレーターの北側のリム(縁)には別のクレーター(ガッサンディA、直径約30km)がコバンザメのようにくっ付いていて面白い。ガッサンディ・クレーターの南側(イメージ上側)には湿りの海(Mare Humorum、直径約825km)と呼ばれるエリアが広がっている。つまり、ガッサンディ・クレーターはちょうどその海の北端に位置しているといえる。 (※) このイメージは上側が南で下側が北になっているので注意のこと。 |
Landing site, Cayley Plains, Dollond and Descartes |
アポロ16号のランディング・サイトはケーリー平野 (Cayley Plains) 上にある。ケーリー平野は地球における地層の分布等を研究する層序学の見地から確認されたものである。イメージ左下側の光り輝く(反射率の高い)円形クレーターがドロンド・クレーター(Dollond crater、10.4S,14.4E、直径約11km)で、その下側にはデカルト・クレーター(Descartes crater、11.7S,15.7E、直径約48km)のリム(縁)が浮き上がって見えている。 |
アポロ16号のランディング・サイトのデカルト高地(Descartes Highlands)は「陸地」に分類されるエリアであり、その三方を「海」に囲まれている。東側の神酒の海(Mare Nectaris)、西側の雲の海(Mare Nubium)、北西側の蒸気の海(Mare Vaporum)、そして北東側の静かの海(Mare Tranquillitatis = Sea of Tranquility)である。 ここから500km以内のエリアには有名な地形が目白押しで、不思議なことに、アポロ16号はそれらのちょうど真ん中に着陸したことになる。西へ500kmほど行ったところにはアルフォンスス・クレーター(Alphonsus crater、13.7S,3.2W、直径約108km)と連鎖クレーターとして有名なデーヴィ・クレーターチェーン(Davy crater chain、11S,7W、全長約47km)があり、南南東方向に300kmほど行けば「月面上の万里の長城」ともいえるアルタイ壁(Altai Rupes(Scarp)、24S,23E)がある。 今回のミッションでも前回の15号と同様、EVA(月面船外活動)が3回実施され、月面車 (Lunar Roving Vehicle /LRV)を使用した広範囲に及ぶサンプル採取や各種実験が行われた。 EVA-1 /First Extravehicular Activity/7 hours and 11 minutes
EVA-2 /Second Extravehicular Activity /7 hours and 23 minutes
EVA-3 /Third Extravehicular Activity /5 hours and 40 minutes
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アポロ16号で採取されたサンプル(岩石)は角礫岩がほとんどだったが、それまでのミッション(11号〜15号)に比べて、よりサイズが大きく、生成年代も更に古い。 あるサンプルに至っては、後に、その生成年代が44億4000万年前〜45億1000万年前であると推定され、アポロ計画で採取されたサンプルでも最古の部類に入ることが判明した。アポロ15号の「Genesis Rock」は45億年前のものと推定されているから、それよりも古いといえる。 |
右のサンプル Anorthosite(直径14cm、重量は1.8kg)はアポロ計画で持ち帰られたサンプルの中で最古(おそらく45億1000万年前)のものではないかといわれている。太陽系が誕生したのが約45億6000万年前であるから、これは相当古いといえる。 |
ノースレイ・クレーター(North Ray Crater)の縁から採取された角礫岩(breccia、ブレッシア)である。直径13cmで重量は1.2kg。角礫岩は多種多様な岩石の破片が、溶解・堆積して造られるので、その年代測定には根気を要する。 |
ノースレイ・クレーター(North Ray crater)の縁の部分で採取されたホワイト・ブレッシア(White breccias)は文字通り白い輝きをもつ角礫岩だった。この白い輝きは角礫岩としての形成過程に由来する。堆積の頻度や圧縮の強弱、含まれる鉱物の種類や割合(特に長石の割合)によって様々な角礫岩ができるからである。もっともBright-Rays (光条) をそのことだけで説明できるのだろうか。 |
クルーたちは2回目の EVA(Station 8)で高さ4フィート、長さ5フィートの巨岩に出くわす。ひっくり返すのもままならない巨岩の、その一部を剥がしたものが Sample no. 68815 だ。この岩石は非常に硬く、そして多くの金属を含んでいた。これは岩石というよりも金属の塊ではないのか。 |
3回目の EVA(Station 13)でクルーたちが遭遇したシャドー・ロック(Shadow Rock)である。ノースレイ・クレーター(North Ray crater) のやや南東寄りのエリアにて 70ミリ ハッセルブラッドカメラで撮影された。このサンプルに関しては様々な解釈が可能だろう。 |
SIM (Scientific Instrument Module) |
上の左側イメージの、剥き出しの機材群が、アポロ15号の機械船 (SM) にマウントされていた SIM (Scientific Instrument Module) である。 Metric Camera、Panoramic Camera、Stellar Mapping Camera、Mapping Camera System、レーザー高度計、スペクトラ・メーター (アルファ線 /ガンマ線 /X線) 、などで構成され、目的別の高水準な撮影・実験を可能としている。上の右側イメージは機材の配置図。 撮影済みのフィルム (カセット/マガジン) は大気圏再突入までに EVA (宇宙遊泳) によって回収される。 SIM は15号、16号、そして17号にマウントされていた。 SIM において行われた実験は以下の通り。 Metric and Panoramic cameras /SIM 系統的、組織的な月面の撮影。 Laser Altimeter /SIM レーザー高度計。 S-Band Transponder Experiment /SIM この実験は、月周回軌道上の宇宙船(CSM)と地球で電波をやり取りしてその電波の周波数の変移(ドップラー変移)を測定し、正確な宇宙船の速度(変化)を求めるものである。具体的には、2115 MHz の電波を地球側から宇宙船に送信し、それを受けた宇宙船側が地球に再送信する。0.01 Hz(0.6 mm/sec)の変移まで識別可能である。但し、宇宙船が月の裏側に入っている間は実験が行なえない。 なお、この実験は14号、15号、16号、そして17号で行われた。 宇宙船の速度(変化)を得ることの意義は、それによって「月の重力の位置的な変化」、「月を構成する物質の分布・密度」すなわち「月の内部構造」が明らかになることにある。 月周回軌道上の宇宙船の速度(変化)は、太陽の重力、地球の重力、および月の重力によって決定される。これらのうち、太陽の重力及び地球の重力の影響(数値)は既に判っているので、「宇宙船の速度(変化)」から「月の重力の位置的な変化」を求めることが出来るのである。 さらに、得られた「月の重力の位置的な変化」から、月内部の「物質の分布・密度」すなわち「構造」を推測することが可能となる。 この実験によって MASCON(マスコン/重い物質) と呼ばれる重力異常地帯の存在が明らかになっていくのである。 なお、宇宙船が地球に帰還した後はサブ・サテライト(Subsatellite/無人の月周回人工衛星)に引き継がれる。 また、月の重力の時間的変移についてはアポロ17号の Lunar Surface Gravimeter で研究された(残念ながら実験は失敗)。 X-ray Fluorescence Spectrometer Experiment /SIM Gamma-ray Spectrometer Experiment /SIM 宇宙空間で暴れ回っている宇宙線 (cosmic rays) が月面の特定の物質に照射されるとガンマ線を発する。この原理を利用して月面上の物質 (元素) の分布を調べるのがこの実験であり、チタニウム (チタン) 、トリウム、鉄などの分布を調べることが出来た。 この実験はアポロ15号及び16号で行われた。 ※ 2005年10月、NASAより、ハッブル宇宙望遠鏡による高精度紫外線観測で月面上広範囲に分布するチタン鉄鉱を確認できたとのリリースがあった。 観測対象エリアは、アポロ15号・17号のランディング・サイトと、アリスタルコス・クレーター (Aristarchus Crater /23.7N,47.4W) 及びシュレーター谷 (Vallis Schroteri /26N,51W)で、月面上にはチタン鉄鉱=イルメナイト (FeTiO3) が豊富に存在することを再確認したことになる。 もっともこれは、Gamma-ray Spectrometer 実験 及び持ち帰ったサンプルなどから既に予想されていたことだったが、、、 Alpha Particle Spectrometer Experiment /SIM 原子核がアルファ崩壊する場合、アルファ線を発する。これを利用して月面の物質 (元素) の分布を調べるのである。月周回軌道上では ラドン-222とポロニウム-210 が、Aristarchus crater ではラドン-222 が、そして、月の裏側の Mare Crisium と Van de Graaf ではポロニウム-210 が、それぞれ確認される。 この実験はアポロ15号及び16号で行われた。 Orbital Mass Spectrometer Experiment /SIM 月の大気の測定。 Bistatic Radar Experiment /SIM 月周回軌道上の CSM(アポロ宇宙船)から月面に向けて電波を発信して、月面から跳ね返ってきた電波をカリフォルニアの追跡ステーションが記録し、月面の状態を観測するものである。アポロ14号、15号、16号で行われた(イメージはアポロ15号の CSM である。特徴的なアンテナが確認できる)。 ここにいう月面の状態とは、月面の凹凸や粗さ及び電気特性(特に、月面の岩石の誘電率)のことである。それらを観測する目的で「Bistatic Radar」実験が考案された。 なお、アポロ17号の Apollo Lunar Sounder Experiment や Surface Electrical Properties も参照。 重量約38kg の月周回軌道上の無人の人工衛星(地球から見れば無人の人工孫衛星) は、アポロ宇宙船のクルーが地球への帰還に先立って月周回軌道上に投入する。この実験はアポロ15号及び16号でのみ行われた。 CSM (司令船、機械船) で行われた S-Band Transponder Experiment の無人版ともいえる。つまり、重力・磁場 (磁気) ・帯電粒子の、地域的及び時間的な変動を観測するのである(宇宙船が地球に帰還した後も継続して調査する必要性があったということなのか)。「重力・磁場 (磁気) ・帯電粒子」 という要素から、あることを想像する人がいるかもしれないが、その点についてはノーコメント。 |
ALSEP は月面上における各種実験装置群(パッケージ)で、セントラル・ステーション(Central Station)を核として、そこからケーブル類を介して各種実験機器(コンポーネント)へコネクトされている。いくつかの実験は飛行士たちが帰還した後も続行されて地球にデータを送信していた。 ALSEP への電源供給は、フィン状(45度間隔で8枚)の外観が独特の原子力発電機 ※(放射性同位元素発電機 /The Radioisotope Thermal Generator /RTG)によってなされ、実験及び地球との通信を可能としている。 ※ 原子力発電機 RTG については環境保護の観点から疑問を呈する声もある。アポロ12号のRTGも参照。 |
月面の土壌を力学的にチェックし、それら土壌が人間の活動(動作)に及ぼす影響を調査するものである。月面着陸を行なった全てのアポロ有人月着陸ミッション(11号、12号、14号、15号、16号、17号)で行なわれた。チェックは、様々な器具(硬度計、ロッドなど)を使用して、いくつかの特性(硬度・強度、粒子密度など)について実施され、それに付随して、サンプル採取や写真撮影も行なわれている。 月表面の土壌は、10〜20cmぐらいの深さまでは容易にサンプリング・チューブを打ち込ませてくれるが、それ以上の深さとなると何らかの「技」を必要とする。例えば、70cm(これが最深)の深さまで打ち込むには、ハンマーで50回ほど叩く必要があった(アポロ15号、16号、17号では電気ドリルを使用できた)。 月表面の土壌は、微粒子状の細かい塵が堆積したようなもので、LM(月着陸船)の着陸時にはロケットの噴射で巻き上げられて雲のように辺りを覆い尽くした(全ての着陸シーンがそうだったわけではない)。さらに、これらの塵(のような土壌)には静電気を帯びたものもあって、宇宙服や実験機器などに張りついて飛行士たちをてこずらせた。 以上のような特性を持つ土壌ではあるが、LM、飛行士、実験機器、LRV(Lunar Roving Vehicle /月面車)を「埋没しない」程度には支えてくれた。もっとも、微粒子状故に「めり込み」は激しく、飛行士、各種機器、LRV(車輪)で1〜2cm、LM(フッドパッド)に至っては2〜20cm土壌にめり込んだ。 |
月の磁気(磁力)の計測は、実験パッケージALSEPに含まれている磁気計(Lunar Surface Magnetometer)、によっても行われたが、この「Lunar Portable Magnetometer」は観測を動的に(移動して/地点を変えて)行なうことで磁気 (磁力) の地域格差を明らかにするものである。 計測結果によると、確認された月の磁気は地域的な格差や強弱の幅が大きいようである。そもそも、月の中心核 ※ は「地球のような(鉄などがドロドロに溶解している)中心核」ではないので、磁場などあろうはずもないと思われていた。しかし、計測結果によると、月においては、「地殻」に該当する部分に磁気を発生させる源があるのみならず、地域的な格差も存在することが判明したのである。 ※ 月にも中心核(直径約450kmで、鉄を含む)自体は存在するが、地球のような高温の核ではない。 |
太陽風は磁場を伴った電子や陽子を含む帯電粒子のプラズマ流で、地球の磁場に絶えず影響を与えている。磁気嵐やオーロラの発生は太陽風が原因である場合が多い。彗星の尾が出現するのも同様である。フレア(太陽面爆発)直後の太陽風は尋常ではなく 10,000個/1立方cm の粒子密度で飛び出してくる。 その太陽風を月面上で捕らえる実験が、アポロ11号、12号、14号、15号、16号 各ミッションで行われた。実験装置は 1.4m x 0.3m のアルミ箔のシートをポールに備え付けたもので、太陽の方角に向けられている。このアルミ箔シートを 77分 (11号)〜45時間(16号) 太陽にさらし、地球に持ち帰って分析する。月面上では、地球上のように磁場や大気層の影響を受けずに太陽風を捉えることができるのである。 アイソトープ(同位体)を分析してみると、ヘリウム-3、ネオン-20、ネオン-21、ネオン-22、アルゴン-36 などの存在が確認された。 |
この実験は、月の地震(以下月震)を記録して、そのデータを地球に送信し、月の内部構造を明らかにするものである。アポロ11号、12号、14号、15号、16号 各ミッションで行われた。 人工的な月震を発生させるためにサターンV型ロケットの三段目(S-IVB) と 月着陸船の上部コンポーネント(Ascent stage)を月面に激突させる試みもなされた。アポロ12号、14号、15号、16号で実施されたPSEでは観測データを1977年9月まで地球へ送信している。※1 各サイトの地震計で構成される「ネットワーク」は、(1) 流星(500g〜5000kg)が1700回以上衝突したこと、(2) 月震の殆どは地下800km〜1000kmで起こること、(3) 月震は一ヶ月ほどのインターバルで発生していること※2、(4) 月震の大部分はマグニチュード2以下であること※3、 などを記録していた。 この実験から、(1) 月の内部構造が地球と同じように、地殻、マントル、中心核などで構成されていること※4、(2) 地殻は厚さが60〜70kmほどあって斜長石を多く含んでいること、(3) マントルは橄欖石や輝石に富んでいること、(4) 中心核は鉄や硫黄で構成されている公算が強く、その半径は450km以下で月の半径(1738km)の25%程度であること(地球の中心核は地球半径の54%ほどある)などが判明(推測も含む)したが、より正確を期すためにも、月の磁気レベルを計測する LPM(Lunar Portable Magnetometer)などの成果が待たれる。 - - - - - |
宇宙からやって来る紫外線 (UV) を研究する実験である。UV は地球の大気に吸収されてしまうので地上には殆ど到達しない (ゼロではないが)。 しかし、この UV は、我々の太陽よりも高温の恒星からやってくることから、天文学的にとても重要な電磁波といわれている。 アポロ16号で行われた UVC 実験では 3インチ望遠鏡/分光器を使用することで 500〜1,600オングストローム (可視光は 4,000〜7,000オングストローム) の波長の UV に対応した。これらの波長の UV は、スペクトルO型/B型/A型の恒星からやって来る (我が太陽はG2型恒星)。温度にして、10,000〜 50,000°K の恒星である (我が太陽は5800°K/11,000°F)。 3インチ望遠鏡/分光器の方向を周期的に変えて観測は続けられた。地球大気 (上層部分/上の2枚のイメージ)、オーロラ、銀河系、星雲、大マゼラン雲、星団、、、。 これらの観測結果はフィルム (カートリッジ) に記録して地球に持ち帰った (凡そ178フレーム)。 |
この実験は、爆薬によって月に地震 (月震) を発生させ(*A)、月の表層部分(地殻の上層部分)の構造を明らかにするものである。アポロ14号と16号で行われた。17号で行なわれた「Lunar Seismic Profiling Experiment」も同系統の実験といえる。 観測の結果、(1) アポロ14号、16号、17号のランディング・サイトにおいては、地殻の上層部分(数百メートルの上層部分)の伝播速度(P波)が秒速0.1km〜0.3km(*B)であること、(2) アポロ17号のランディング・サイトでは地表の玄武岩層の厚さが1.4km(*C)ほどあること、などを明らかにした。 - - - - - |
惑星 (天体) が内部の熱を損失する度合い (損失率) は、地殻変動や火山活動の有無、頻度、規模などを知る上で貴重なデータとなる。そして、Heat Flow Experiment は それら損失率を測定する実験である。アポロ15号、16号、17号で行われたが、16号の実験はケーブル破損事故で失敗した。 実験の結果、1平方メートルあたり21ミリワットのヒートフローを記録した (アポロ17号では16ミリワット)。地球の場合の 「87ミリワット(平均)」 と比較すると月のヒート・フラックス (heat flux) は地球の場合の18〜24%程度なのだ。但し、月のヒート・フラックスは地形 (海、高地など) によって幾らかの偏りがあるようだが。 以上のことは、月の天体としてのサイズや火山活動が終焉した時期 (約30億年前) などから予想されてはいた。 |
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